バンドギャップはペロブスカイト太陽電池の性能を左右する最も重要なパラメータです。ペロブスカイトは組成を変えるだけでバンドギャップを自在に調整できるという、シリコンにはない特長を持ちます。
バンドギャップとは何か
半導体の価電子帯(電子が詰まっている帯)と伝導帯(電子が自由に動ける帯)の間のエネルギー差をバンドギャップといいます(単位:eV)。
- バンドギャップより大きいエネルギーの光→ 吸収して電子-正孔対を生成(発電に寄与)
- バンドギャップより小さいエネルギーの光→ 吸収されず素通り(損失)
バンドギャップが小さいほど多くの光を吸収できますが、取り出せる電圧(Voc)も下がります。効率を最大化する「最適バンドギャップ」はShockley-Queisser理論によれば単接合の場合約1.1〜1.4 eVとされています。
主要な太陽電池材料のバンドギャップ比較
| 材料 | バンドギャップ(eV) | 特徴 |
|---|---|---|
| 結晶シリコン | 1.12 | 固定値。近赤外域まで吸収 |
| GaAs(ガリウム砒素) | 1.42 | 宇宙用高効率セルに使用 |
| FAPbI₃ペロブスカイト | 1.47 | 太陽光吸収の最適値に近い |
| MAPbI₃ペロブスカイト | 1.55 | 初期の代表材料 |
| MAPbBr₃ペロブスカイト | 2.27 | タンデム上部セル向け |
| CIGS | 1.0〜1.7 | 組成で可変(Ga比で調整) |
| CdTe | 1.44 | シリコンに次ぐ量産実績 |
ペロブスカイトのバンドギャップチューニング
ペロブスカイト(ABX₃)のバンドギャップは組成を変えるだけで1.2〜2.3 eVの範囲で連続的に調整できます。これが最大の強みです。
Xサイト(ハロゲン)による調整
最も一般的な調整方法。ヨウ素(I)→臭素(Br)→塩素(Cl)の順でバンドギャップが大きくなります。
| 組成 | バンドギャップ | 色・用途 |
|---|---|---|
| MAPbI₃(純ヨウ素) | 1.55 eV | 暗赤色・標準セル |
| MAPb(I₀.₈Br₀.₂)₃ | 1.65 eV | 橙赤色・タンデム上部セル |
| MAPb(I₀.₅Br₀.₅)₃ | 1.80 eV | 橙色・高Voc用途 |
| MAPbBr₃(純臭素) | 2.27 eV | 黄緑色・超高Voc |
Aサイト(有機カチオン)による微調整
MA(メチルアンモニウム)をFA(ホルムアミジニウム)やCs(セシウム)に置き換えることでバンドギャップを微調整できます。FA/Cs混合系はバンドギャップを下げつつ熱安定性を向上させる設計に使われます。
タンデム設計におけるバンドギャップの役割
複数の太陽電池を積層するタンデム型では、各セルのバンドギャップを太陽光スペクトルに合わせて分担させることで、理論上の変換効率の上限(Shockley-Queisser限界)を超えられます。
ペロブスカイト/シリコンタンデムの最適設計
シリコン下部セル(1.12 eV)は赤色〜近赤外光を吸収。ペロブスカイト上部セル(1.65〜1.75 eV)は青〜緑色光を吸収。2つのバンドギャップを組み合わせることで太陽光スペクトルのより広い範囲をカバーし、2025年時点で33.9%の世界記録を達成しています。
バンドギャップと変換効率の理論的上限
Shockley-Queisser理論による単接合太陽電池の効率上限:
- バンドギャップ 1.1 eV(シリコン)→ 効率上限 約29%
- バンドギャップ 1.4 eV(最適値)→ 効率上限 約33%
- バンドギャップ 1.55 eV(MAPbI₃)→ 効率上限 約31%
タンデム型では2接合で約42%、3接合で約48%まで上限が上がります。ペロブスカイトのバンドギャップ可変性は多接合タンデムの設計に理想的です。