ペロブスカイト太陽電池に関する専門用語・略語を解説します。五十音順・アルファベット順で引けます。
A〜F
ABX₃構造ABX₃ Structure / Perovskite Structure
ペロブスカイト結晶の化学式。Aはメチルアンモニウム(MA)・ホルムアミジニウム(FA)・Csなどの陽イオン、Bは鉛(Pb)・スズ(Sn)などの金属イオン、Xはハロゲン(I・Br・Cl)。この構造が太陽電池として優れた光吸収特性をもたらす。
AM1.5GAir Mass 1.5 Global
太陽電池の効率測定に使われる標準太陽光スペクトル。地表面での平均的な太陽光(1000 W/m²・25℃)を模擬する。すべての認定効率はこの条件で測定される。
BIPVBuilding-Integrated Photovoltaics
建材一体型太陽光発電。壁材・屋根材・窓ガラスなどの建築部材として機能しながら発電する。ペロブスカイトは色調・透明度・柔軟性を調整しやすいためBIPVへの適性が高い。
ETL(電子輸送層)Electron Transport Layer
ペロブスカイトセルの積層構造の一部。光励起で生じた電子を選択的に取り出す層。TiO₂(酸化チタン)やSnO₂(酸化スズ)が広く使われる。SnO₂は低温成膜できフレキシブル基板に適する。
FA(ホルムアミジニウム)Formamidinium
ABX₃構造のAサイトに使われる有機陽イオン(CH(NH₂)₂⁺)。MAより熱安定性が高く、現在の高効率ペロブスカイトセルの主流材料。FAPbI₃は1.47eVのバンドギャップを持ち太陽光吸収に最適。
FF(フィルファクター)Fill Factor
太陽電池の性能指標のひとつ。実際の最大出力を(開放電圧×短絡電流)で割った値。理想的な素子は1に近い。欠陥・直列抵抗・並列抵抗の損失がFFを下げる。優れたペロブスカイトセルは0.85以上。
G〜N
HTL(正孔輸送層)Hole Transport Layer
ペロブスカイト積層構造の一部。光励起で生じた正孔を選択的に取り出す層。spiro-OMeTAD・PTAA・P3HTなどが使われる。コストと安定性の改善が研究課題。
IEC 61215IEC 61215
結晶シリコン太陽電池モジュールの国際規格。85℃/85%RH・1,000時間の恒温恒湿試験など過酷な耐久試験を含む。ペロブスカイト太陽電池の商業化にはこれに準拠した耐久性の実証が不可欠。
Jsc(短絡電流密度)Short-circuit Current Density
太陽電池の端子を短絡した時に流れる電流の面積あたりの値(mA/cm²)。光吸収量と電荷収集効率に依存する。ペロブスカイト/シリコンタンデムでは上部セルと下部セルのJscを整合させることが効率向上の鍵。
MA(メチルアンモニウム)Methylammonium
ABX₃構造のAサイトに使われる有機陽イオン(CH₃NH₃⁺)。2009年の初報告から使われてきた代表材料だが熱安定性が低いため、現在は耐久性の高いFA/Cs系への置き換えが進む。
MI(マテリアルズ・インフォマティクス)Materials Informatics
AIや機械学習を活用して新材料を高速探索する手法。ペロブスカイト分野ではNIMSなどが鉛フリー代替材料の探索や安定化添加剤の最適化に活用している。
n-i-p / p-i-n構造n-i-p / p-i-n Architecture
ペロブスカイトセルの積層順序を示す。n-i-p(正置型)はガラス側からETL→ペロブスカイト→HTLの順。p-i-n(逆置型)はHTL→ペロブスカイト→ETLの順で、低温プロセスに適しフレキシブル基板向き。
NRELNational Renewable Energy Laboratory
米国国立再生可能エネルギー研究所。「Best Research-Cell Efficiency Chart(ベストリサーチセルチャート)」を管理・公開し、太陽電池の効率認定において世界最高権威とされる機関。
O〜Z
PCE(光電変換効率)Power Conversion Efficiency
太陽電池が変換できる電力の割合。(最大出力電力)÷(入射光電力)×100(%)。AM1.5G・1000W/m²・25℃で測定した第三者認定値が国際比較に使われる。ペロブスカイト単体の認定最高値は26.7%(2025年時点)。
R2R(ロール・トゥ・ロール)Roll-to-Roll
フィルムを巻き出しながら連続的に成膜・加工するプロセス。新聞印刷と同様の製造方式で、ペロブスカイトのフレキシブル大量生産に適する。積水化学が採用するフィルム型製造の中核技術。
SAM(自己組織化単分子膜)Self-Assembled Monolayer
分子が基板表面に自発的に規則正しく並んで形成される単分子の膜。ペロブスカイトセルの界面欠陥を低減し、効率と安定性を同時に向上させる界面修飾材として注目される。
Voc(開放電圧)Open-circuit Voltage
太陽電池の端子を開放した時の電圧。材料のバンドギャップと欠陥密度によって決まる。ペロブスカイトはバンドギャップの割にVocが高く取り出しやすいことが特長のひとつ。
ア行
イオン移動
ペロブスカイト結晶内でハロゲンイオンが電場や熱の影響で動く現象。電流-電圧特性のヒステリシスや長期的な性能劣化の主要因。2D/3Dハイブリッド構造や界面修飾で抑制を図る。
エネルギーギャップ(バンドギャップ)
半導体の価電子帯と伝導帯の間のエネルギー差(eV)。太陽電池の吸収できる光の波長範囲を決める。ペロブスカイトは組成を変えることで1.2〜2.3eVの範囲で連続的に調整できる(バンドギャップチューニング)。
封止技術(エンキャプシュレーション)
太陽電池モジュールを外部環境(水分・酸素・熱・UV)から保護する技術。ペロブスカイトは水分に特に弱いため、水蒸気透過率10⁻⁶ g/m²/day以下の超高バリア封止が長寿命化の鍵。
カ行
グリーンイノベーション基金
経済産業省がNEDOを通じて設立した2兆円規模の産業支援基金(2021年〜)。次世代太陽電池(ペロブスカイト含む)の開発・実証が主要プロジェクトのひとつで、積水化学・パナソニック・東芝などが採択されている。
結晶化プロセス
ペロブスカイト前駆体溶液を基板上で乾燥・加熱して結晶膜を形成するプロセス。結晶の粒径・均一性・欠陥密度が太陽電池性能を大きく左右する。アンチソルベント法・二段階法・ガスクエンチ法などの手法がある。
サ行
スピンコート法Spin Coating
基板を高速回転させながら溶液を滴下して均一薄膜を形成する成膜法。研究室での高効率セル作製に広く使われるが、大面積化に不向きなため産業用途ではスロットダイやブレードコートへの置き換えが進む。
スロットダイコート法Slot-Die Coating
スリット状のノズルから溶液を連続的に塗布する成膜法。大面積・連続生産に適しR2Rプロセスとの親和性が高い。塗布量・速度・乾燥条件の精密制御が均一膜の鍵。
タ行
タンデム型太陽電池Tandem Solar Cell
異なるバンドギャップをもつ2種以上の太陽電池を積層した高効率デバイス。ペロブスカイト(広バンドギャップ)とシリコン(狭バンドギャップ)の組み合わせが最有力で、2025年時点で33.9%の世界記録を達成している。
ダブルペロブスカイトDouble Perovskite
A₂BB'X₆の化学式をもつペロブスカイト関連構造。Cs₂AgBiBr₆などが代表例で、鉛を含まず毒性が低い。現状は効率が低い(数%〜10%程度)が鉛フリーの有力候補として研究が進む。
2D/3Dハイブリッド構造2D/3D Hybrid Perovskite
三次元(3D)ペロブスカイト上に二次元(2D)層を形成した積層構造。2D層が水分・熱・光から3D層を保護し、高効率と耐久性を両立する手法として注目される。ルファミン系の長鎖有機分子を使うことが多い。
ナ行
鉛フリーペロブスカイトLead-free Perovskite
Bサイトの鉛(Pb)を他の元素に置き換えたペロブスカイト。スズ(Sn)・ビスマス(Bi)・ゲルマニウム(Ge)・アンチモン(Sb)などが候補。現状では効率・安定性ともに鉛系に大きく劣るが環境規制対応として研究が活発。
ハ行
バンドギャップチューニングBandgap Tuning
ペロブスカイトの組成(AサイトのFA/MA/Cs比や、XサイトのI/Br比)を変えることで吸収波長範囲を自在に調整できる特性。シリコンや有機薄膜にはない大きな利点で、タンデム設計の自由度を高める。
ヒステリシスHysteresis
ペロブスカイト太陽電池のI-V特性において、電圧を正方向にスキャンした時と逆方向にスキャンした時で効率が異なる現象。イオン移動が主因とされ、安定化された効率の測定にはMPP追跡法が必要。
マ行
モジュール効率
実用サイズ(100cm²以上)のモジュール全体の変換効率。研究室サイズのセル(〜1cm²)より10〜30%低いのが一般的。デッドエリア(配線・スクライブ部分)の最小化と均一成膜が課題。
ラ行
劣化機構Degradation Mechanism
ペロブスカイト太陽電池の性能が経時的に低下する原因の総称。水分による結晶分解・熱による相転移・UVによるキャリア捕捉層の劣化・酸素酸化・イオン移動による界面劣化などが主要因。